雨の夜:Rainy night


雨の夜。気分が落ち着いていたら、バッハのチェロ組曲を聞きたくなります。

チェロの音は、温かく、ほどよい低さが特徴です。とくにバッハの楽曲には、規則性に沿って並んだ音階、音の幅、和音、メロディーがあり、所々に現れる「たゆみ」は、何ともいえない恍惚さを感じさせます。 

 

さて、音楽が人に与える印象は異なりますが、リラックス効果をもたらすとして、音楽療法の研究も進んできました。音楽療法には、2種類に大別されます。

一つは「受動的(受容的)音楽療法」で、音楽を聴くことで情緒や言動が変わることを目的とします。通勤、通学、家事の合間、寝る前など、気分転換に音楽を聞く方もいらっしゃるでしょう。

もう一つは「能動的音楽療法」と言われ、歌ったり楽器を演奏したりすることで、言語的、非言語的コミュニケーションを図るために用いられます。カラオケや合唱、楽器の練習などが当てはまりますね。

 志和らの研究1) は、前者に対して、音楽鑑賞によって患者さんの気分が明るくなり、「楽しい」「陽気」「軽やかな」といった正の感情へ変化したことを明らかにしました。特に、生演奏を聴いたときに気分の変化が大きかったとも記されています。

 

私の場合、受動的にも能動的にも音楽に触れるのが日課となっています。

今でもピアノを続けており、音楽療法の魅力は手に取るように分かります。

これまで、病院や美術館などでピアノのコンサートを開催してきました。まったく初対面だった方々が、最後まで演奏を聴いてくださり、中には涙を流して「どうもありがとう」と声をかけてくださる方もいらっしゃったのは、一生忘れられません。

生演奏は、その場の独特な緊張感、聴衆の感情や状況、楽器の状態など、さまざまな要素が複雑に絡みあったうえに届けられます。これは、どれだけテクノロジーが発達しても、超えられない壁だと思うのです。

 

アート作品も同じ。

SNSやホームページで作品を簡単に見ることができますが、あくまで「画像」でしかありません。

私も、本物を通して人の心を動すアーティストとして成長していきたいものです。

さて、長くなってしまいましたが、バッハのチェロ組曲は、どれをとっても素晴らしい作品です。クラシックコンサートのハードルが高いなぁと感じる方は、まず動画から聴いてみてくださいね。


J.S.Bach Complete Cello-Suites by P. Fournier (1960)

 

1. Cello-Suites #1 BWV-1007 (0:00)

2. Cello-Suites #2 BWV-1008 (18:39)

3. Cello-Suites #3  BWV-1009 (37:44)

4. Cello-Suites #4 BWV-1010 (1:00:56)

5. Cello-Suites #5 BWV-1011 (1:26:26)

6. Cello-Suites #6 BWV-1012 (1:51:20)



In a rainy night, I feel like listening to Bach's Cello Suite when my mood is calm. The cello has a warm, moderately low sound. Bach's music has scales, ranges of notes, chords, and melodies that are arranged according to regularity, and the "itching" in some parts appears to be indescribably ecstatic.

I have a daily routine of being exposed to music, both passively and actively. I still continue to play the piano, and the appeal of music therapy is palpable. I have given piano concerts at hospitals and museums. I will never forget when people I had never met before listened to my performance until the end, and some of them even shed tears and said, "Thank you so much".

A live performance is a complex combination of many factors, including the unique tension of the situation, the emotions and circumstances of the audience, and the condition of the instruments. I think this is a barrier that cannot be overcome, no matter how much technology is developed.

It's the same with art; you can easily see artworks on social networking sites and websites, but they are just "images". I would like to grow as an artist who can move people's hearts through real things.


参考文献

1) 志和ら「音楽療法に関する臨床心理学的研究: 生演奏による音楽鑑賞の治療的効果について」広島修大論集 第48巻 第2号 (人文) 2007 

2) 「21世紀の音楽療法への提言(1): 音楽の数理的構造を通して」宮城大学看護学部紀要 第1巻 第1号 1998